2014-03-07

和書『ねじとねじ回し』〜道具のルーツをたどるエレガントな探求の旅

http://www.dww.com より転載

誰も気がついていないとは思いますが告白します。ブログのタイトル変えました。

「かえる堂書店」から「かえる堂」へ。

開始当初は、読んだ本の記録を残すためのブログにしようと考えて「書店」と名付けたのですが、振り返ってみれば本の感想を記したエントリーは数えるほど。

面白くない本の感想は書きたくないし、面白かった本の感想を伝えるのは難しい・・・。考えてみれば、試合でもなければ仕事でももない誰も読んでいない(とわかっている)ブログに、ヘボな書評もどきを書いたからといって死ぬわけでもないのに。

書いていないものは仕方ない。しかも、書けないものは書けない。

じゃ、タイトル変えちゃおう、となりました。
我ながら、根本的な解決を避けるタイプだなと、しみじみと思います。

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さて。

今日は読了した本について書くことにします。

ねじとねじ回し〜この千年で最高の発明をめぐる物語
ヴィトルト・リプチンスキ著 春日井晶子訳 早川書房


水道の蛇口から携帯電話まで、日常空間のそこここに顔を出すねじ。この小さな道具こそ、千年間で最大の発明だと著者は言う。なぜなら、これを欠いて科学の精密化も新興国の経済発展もありえなかったからだ。中世の甲冑や火縄銃に始まり、旋盤に改良を凝らした近代の職人たちの才気、果ては古代ギリシアのねじの原形にまでさかのぼり、ありふれた日用品に宿る人類の叡知を鮮やかに解き明かす軽快な歴史物語。(Amazon.co.jp

アマゾンで確認したら、カスタマーレビューがいくつか(私が見たときは13件)並んでいて、しかも高評価だったのでびっくりしました。こんなマニアック(っぽい)本を読む人って多いんですね〜。どういうきっかけでこういう本を手に取るのでしょうね。とても気になります。

翻って私は、工具の図が載っている本を探す途中でこの本に巡り会いました。これも変な理由かな。図書館で、建築とか工具などの本を漁っていたときに目についたのがこの本です。『ねじとねじ回し』というタイトルも素敵ですが、表紙絵もすばらしく、思わず手にとってしまいした。

この本の素晴らしいところは、以下の3つ。
1.筆者の探求の過程が楽しい
2.図表および文献等についての注記・出典がしっかりしている
3.文章がエレガント。もちろん内容も。

探求の過程は、大変楽しく、優雅です。

OED(オックスフォード英語辞典)を出発点として、『百科全書』(フランス啓蒙思想ディドロダランベールら「百科全書派」が中心となって編集し、1751年から1772年まで20年以上かけて完成した大規模な百科事典)やマーサー博物館を訪ねてみたりと、なんだかステキ。どういうところに目をつけて、どこをどうやって探すのか、筆者の調査の過程はとても参考になります。


『百科全書』ってこんなやつ。Wikipediaより

ペンシルバニア州のマーサー博物館

私、ひそかに、歴史を専門にしている人って、すでに明らかになっていることを研究してどこが楽しいのかなと思っていました。しかし、この本を読んでその魅力が少し理解できたような気がします。ルーツを探ることは、まるでミステリーの犯人探しのよう。犯人は誰か?いつ、どんな目的で、誰が犯行に及んだのか?!的な。

道具のルーツを探るのは意外に難しいようで、そもそも現在利用されているような目的のために作られたとは限らないから、現在の利用シーンから推察される範囲に限定して調査すると調査不足にもなりかねないようです。なかなか深い。

さらには、私たちが見慣れてしまったこの「ねじ」というのは、複雑な三次元の形(ヘリックス)をしているそうで、単なる思いつきで発明できる代物ではないといいます。「ねじを発明するには、特別な才能がいくつも必要になる」のであって、「数学理論と実際の力学とを組み合わせて、日常ではお目にかからない物体の利用法を想像しなければならない」というのです。ひえー。そうなんだ。言われてみれば、ねじの形ってすごい(かも)。

私を含む殆どの人は、ねじにもねじ回しにそのものには興味はないですよね。必要かもしれないけれど興味の対象ではない代物です。そんな日常の道具を扱っているにも拘らず、この本を読んでいると「それで?誰がつくったの?」と前のめりになってしまいます。

誰にでもオススメという訳ではありませんが、本好きな方であれば、読む楽しさを満喫できるものかもしれません。巻末資料含め181ページと短いし。

ちなみに、工具の図を探していた当初の目的も達成することができました。巻末に工具小目録というのがついているんです。地味に資料たっぷり。

道具?カエル?

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